リフォーム産業新聞社  企画開発部デスク 小平隆嗣さん-業界の賢者に聞く vol.2-

2020.05.20 15:36

リフォーム産業新聞社 企画開発部デスク 小平隆嗣様

【プロフィール】

こだいら・たかし

企画開発部デスク。大手リフォーム会社の営業を経てリフォーム産業新聞社に入社。

地域のリフォーム会社のほか、住宅設備メーカーなどリフォーム業界向けにビジネスを展開する企業を中心に幅広く取材。

B2Bマッチングイベント「リフォーム産業フェア」企画運営を手掛け、

紙面以外にも幅広く情報発信場の提供を進めている。

 

訪問販売から店舗販売へ。近年は大手ハウスメーカーの参入が相次ぐ

――はじめに、塗装業界の振り返りからお願いします。この10年で特に印象に残っている出来事はありますか?

まず思いつくのが、訪問販売から店舗販売への移行です。15年くらい前まで、塗装業界は訪問販売が主流でした。リフォーム産業新聞では、毎年、リフォームの売り上げランキングを発表しています。以前は、上位に入る塗装会社の多くが訪問販売をメインとしていました。ところが、悪質な訪問販売が目立ち、リフォーム会社や塗装会社のイメージは著しくダウンします。これにより、2005年前後を境に、多くの会社が訪問販売から店舗販売へとシフトしました。というのも、一部の悪質な会社は、あるエリアで悪評が立ったらまた別のエリアへ、と移動してビジネスを行います。ゆえに地域に根づくことができません。だからこそ、店舗をかまえるということは「この地に根づく覚悟があります。逃げも隠れもしません」という表明となり、店舗販売型を選ぶ会社が増えたのです。

もちろん、すべての訪問販売が悪質だったわけではありません。今でも訪問販売メインでまっとうにビジネスをしている会社もあります。ただ、「訪問販売=悪徳業者」というイメージは根強く残っており、リフォーム会社にとっても塗装会社にとっても、イメージアップはこの10年の大きな課題でした。真面目に商売されているリフォーム会社や塗装会社の尽力により、ひと頃に比べれば、多少はイメージが回復したように感じます。それでも、不安視する消費者は依然として多い。イメージアップは、塗装業界の次の10年の課題でもあります。

――リフォーム業界では異業種参入が相次いでいると聞きました。塗装業界はどうでしょうか。

家電量販店や家具チェーン店といった異業種参入組のなかにも外壁塗装を手がけている会社はありますが、主力ビジネスになるには至っていません。異業種参入組が力を入れているのは、キッチン、バス、トイレなどの水まわりの交換や、内装のフルリノベーションです。しかしながら、近年、大手のハウスメーカーも外壁リフォームを手がけるようになり、売り上げを伸ばしています。15年以上前は、先述の売り上げランキング上位を占めていたのは、世間的には知名度が高くない、リフォームを検討している人でなければ社名を知らないような会社ばかりでした。それが今は、積水ハウスさんや大和ハウスさんのような有名なハウスメーカーがトップ10に入ってきています。外壁塗装業界でも長らくガリバー企業がいないといわれてきました。その状態が少しずつ変わってきています。

とはいえ、リフォーム市場に占める塗装の割合というのはまだまだ小さい。2020年の住宅リフォーム市場の規模は7兆円程度といわれていますが、そのうち塗装の市場規模は1・4兆ほどと試算しています。もっと少ないとする見方もありまして、市場規模が読みにくい分野ではあります。

――ほかにも何か印象に残っている出来事はありますか?

塗料の進化です。リフォームに関してはこの10年間で技術の画期的な進化はありませんでした。そんななか、塗料の性能向上は著しく、新しい塗料が次々に開発されています。ご存じのように、十数年前はウレタン塗料が主流でした。それがやがてアクリルになり、近年はシリコンが台頭しています。ラジカル、フッ素、無機などさらに上のグレードも出てきています。

今後も新しい性能の塗料がリリースされるでしょう。一例を挙げると、ラディクールジャパンさんのRadi-Cool 放射冷却技術を応用した塗料が、早ければ今年にも発売されると聞いています。この塗料を建物に塗ると、放射冷却により日中でも建物の表面や内部を冷却でき、夏場の省エネに役立つそうです。いずれは、一般の戸建て住宅にも使われるようになるかもしれません。

――塗料の進化は塗装業界にはどのような変化をもたらすでしょうか?

新しい塗料が出ると、それをいち早く扱って差別化を図る塗装会社が現れます。けれど、新塗料もやがては「定番」になり、その塗料を扱っているというアドバンテージを失った会社は失速します。そして、次の塗料が出れば、それに最初に飛びついた別の会社が頭一つ抜け出す……。この流れは昔も今も変わりませんし、今後も変わらないでしょう。

ただ、塗料の性能が上がるということは、一般的には、耐久性・耐候性が上がって保証期間が長くなることを意味します。塗料の保証期間が5年であれば、5年に一度、塗り替えのチャンスがあります。けれど、保証期間が伸びれば、それが10年に1度になり、15年に1度になる。これは単純に考えれば、売り上げを上げる機会が減るということです。

しかしながら、保証期間が長い塗料は、その分、価格も高くなる傾向にあります。したがって、1回当たりの塗り替え費用を高く設定すれば売り上げを下げずにすむわけですが、ここには問題があります。お客様が相見積もりをとった場合、他社に価格で負ける可能性があるのです。そこで大切なのが、コストの説明の仕方です。近年、業績を伸ばしている会社は、1回当たりの費用を提示するだけでなく、お客様にトータルコストで考えてもらえるよう、20年、30年先の塗り替えプランも提示しています。

ご存じのとおり、塗り替えは何度もできるわけではありません。下地や建材の寿命を考えれば、一般的な戸建て住宅の場合、塗り替え回数はトータルで3回くらいが限界ではないでしょうか。3回塗り替えたら、壁そのものを替えたり、補修したりという大々的なリフォームが必要です。伸びている会社の営業は、こうした情報をお客様にしっかりと伝えています。そのうえで、家の寿命も踏まえた塗り替えプランを示し、1回当たりの費用はほかより高くても、トータルコストで見ると最終的には同じくらい、あるいはお得になると説明しているのです。もちろん、アフターメンテナンスなどの付加価値提案も忘れません。コストに見合った品質とサービスであることを伝えられれば、納得して選んでいただけるのです。塗料の進化により、1回当たりの費用を提示するだけの営業スタイルは通用しなくなりつつあります。

――金子編集長によると、リフォーム業界ではIT化進んでいるとのこと。塗装業界はいかがでしょうか。

先進的な事業者はいますがリフォーム業界自体、IT化はさほど進んでいません。塗装会社でも販売店に注文するのも、いまだファックスがメインのようです。「ファックスで来た注文書を営業がエクセルに入力してほかの部署に送るんだけど、入力ミスがけっこうな割合であって……」なんていう話を今も耳にします。現地調査のやり方や見積もりの出し方も、アナログ作業だったり、属人的だったりすることが少なくありません。これは塗装業界の大きな課題といえます。

そんななか、ITツールも登場しています。特に現地調査についてはよいツールが出てきていて、非常に便利だなと感じたのが、外観を撮影するとそれだけで寸法を計測できるカメラです。IT化に積極的な会社のなかには、ドローンによる点検を実施している会社もあります。ドローンを飛ばして屋根の状況をリアルタイムに見ることができれば、職人が屋根に上がる手間を省けますし、お客様も一緒に確認できます。さらに、寸法計測機能のあるカメラを使えば、ドローンで上から屋根の写真を撮るだけで、屋根の面積が計れて見積もり用の平米数もわかります。リフォーム業界ほど進んでないとはいえ、ITツールの活用は必要不可欠です。上手に利用すれば、人件費や労働時間をカットしつつ、利益率もキープできるのではないでしょうか。

また、ITツールの活用は、人材を確保するうえでも役立ちます。考えてみてください。同じ給料で仕事をするのなら、わざわざ屋根に登って降りなくてはいけない会社と、ドローンでぱっと作業できる会社とでは、どちらがいいでしょうか。私なら断然、後者です。職人不足問題も、いずれはITでクリアできるかもしれません。たとえば、海外で開発されたあるメガネは、グラスの一部がモニターになっていて、モニターを通じて上司が塗り方をレクチャーできる仕様になっています。これが実用化されれば、一度に多くの新人を育成できますし、技術の継承もできます。IT技術による職人の育成は、今後さかんになるかもしれません。このほか、壁の自動洗浄機械のようなツールも国内の展示会でお披露目されています。塗装の一部の工程は、いずれは機械化されるでしょう。

――先ほどの業界のイメージアップに関する話題が出ました。イメージアップについて何か取り組みをされている会社はありますか?

ある塗装会社は、塗装の練習用の壁をショールームに設置して、職人が空いた時間に自由に練習できるようにしているそうです。そこでは、新人からベテランまで誰かしらが塗装をしていて、ショールームの外からもその様子が見られようになっています。職人はスキルアップでき、消費者は「この会社に塗り替えを依頼したら、こういう職人さんがこんな風に塗ってくれるんだ」と安心感を得られる。まさに一石二鳥です。職人が一生懸命塗っている姿を見て、塗装業界への不安が軽減される方もいるかもしれません。塗り替えに興味がなかった消費者が、関心を持つきっかけにもなります。

職人の格好やマナーを意識される会社も増えています。塗装系の職人というと、どちらかといえばヤンチャなイメージがありました。それが最近ではおしゃれな作業着が採用されるなど、徐々にそれが変わりつつあります。イメージを変えるためには、もっともっと変わらなければいけないところです。

 

高級路線と低コスト路線。消費者のニーズは二極化が進む

――お客様のニーズについてはいかがでしょうか。この10年で変化はありましたか?

塗料でいうと、最近は汚れにくい塗料が伸びていますね。劣化しにくい、長持ちするというのは大前提で、汚れにくい塗料が消費者にうけているようです。今後は、抗菌や抗ウイルスなど健康志向の塗料のニーズも高まるかもしれません。断熱効果や遮熱効果のある塗料を塗れば、夏場であっても家のなかは涼しく快適で、健康によく、省エネにもなる。塗料にも高機能性など付加価値が求められる時代になっているのだと思います。

とはいえ、すべての消費者が付加価値を求めているわけではありません。塗料に付加価値を求めるのは、どちらかといえば富裕層です。一方で、「塗り替えはできるだけ安くすませたい」という消費者も存在します。そして、低コストを追求する層は、「打ち合わせに時間をかけたくない」と思う傾向が強いようです。対面での打ち合わせはできるだけ時間を短く、回数を少なくしたい。こうした消費者のニーズに応えるべく、LINEメインでやりとりをする会社も登場しています。

LINEでのやりとりは、打ち合わせ時間や回数を減らせる以外にもメリットがあります。何か不具合が起きたとき、お客様にしてみれば、電話よりもLINEで連絡するほうが気楽でしょう。不具合がある箇所を撮影して送ってもらえば、それが不具合なのかそうでないのかを写真から判断できますから、塗装会社は営業スタッフの手間を省けます。また、編集長の金子もいっていたように、一人のお客様に何度もリピートしてもらうのがリフォームの理想です。LINEの交換をしていれば、次のリフォームも気軽に相談してくれるかもしれません。LINEの活用は塗装会社側にもメリットがあるのです。

このほか、外壁のカラーシミュレーションサービスも消費者に好評です。「塗料のカタログで見たときはいいと思ったんだけど、壁という大きな面積に塗ってみるとイメージが違った……」というのはよく聞く話です。「思ったより色が薄かった・濃かった」というクレームも少なくありません。こうしたトラブルは、タブレットやPCでのカラーシミュレーションサービスを導入することで減らせるはずです。

――お客様が塗り替えを検討される際、塗り替え会社の情報はどうやって入手しているのでしょうか。

口コミが多いようです。口コミ情報がなかなか得られなかったり、一見のお客様だったり、本当にはじめてリフォームされる方であれば、チラシやWEBで情報を入手するパターンも考えられます。チラシでも気になった会社があればホームページを見て、さらにネットで口コミを調べて、それから見積もりを依頼するパターンが多いのではないでしょうか。ですから、チラシとホームページのどちらかだけというスタイルでは、新規客の確保は難しいといわざるをえません。チラシと、それと連動させてホームページもきちんと内容を更新していくことが大切だと思います。

なお、家電量販店や家具チェーン店に行って塗装に関する情報を得る人は、まだ全体の1割程度でしょう。家電量販店も家具チェーン店も、リフォームのメインは水まわりや内装です。塗り替えに本腰を入れているところはまだまだ少なく、大々的なアピールもこれからになってくるでしょう。

 

これから売り上げを伸ばす企業の条件とは?

――今後、外壁塗装の市場は伸びていくでしょうか。

伸びていくと思います。理由はいくつかありまして、適切なタイミングでの塗り替えが普及していないというのがその一つです。本来ならば10年で寿命がきてしまうのに、15年目、20年目に塗り替える家庭は少なくありません。保証期間が10年なら、10年おきにきちんと塗り替えてもらえるような案内ができれば、塗り替え頻度が増え、売り上げアップにつながります。塗り替え市場には、まだまだ規模拡大の余地があるのです。

また、塗装を手がける会社と、水まわりを手がける会社は、これまでは明確に棲み分けがなされていましたが、最近、水まわりのリフォームをやりつつ、塗装にも取り組む会社が増えています。塗装会社にしてみればライバルが増えることになるわけですが、業界が活気づけば、これまで塗り替えに関心がなかった消費者も取り込めるかもしれません。そうなれば、市場はさらに大きくなるでしょう。いずれにしても、塗装市場は当面は拡大していくものと考えています。

――今後、塗装業界で勝ち残るためには何が必要でしょうか。

まずは、時流やニーズの変化にすばやく対応する力が不可欠です。たとえば、ほかの業界に比べると遅いものの、塗装業界にもIT化の波は確実に来ています。それをしっかり活用して、コストを下げつつ利益を上げる仕組みを考える。そういったビジネス感覚がないと、これからは勝負の土俵にすら立てなくなるのではないでしょうか。

消費者のニーズについていえば、先ほどもお話ししたように今後は二極化が進むと考えられます。塗り替えに付加価値を求める層と、時間もコストもできるだけかけたくないと考える層です。どちらの層も狙おうとすると、結局はどっちつかずになってしまう恐れがあります。

明確なブランド戦略も必要です。例えば、全国的には知られていないけれど、大阪のある地域では9割の住民が三和ペイントの名前を知っている――。そんなブランドを確立できている会社は強いですね。塗装に限らず、今後のリフォーム市場で確実に利益を出して勝ち残れるのは、地域に密着した戦略を立てられるところだろうと思います。

反対に、フランチャイズに加盟して、大手の家電量販店や家具チェーン店に対抗する方法もあります。一つの会社だけでブランド力を高めるのは難しいので、どこかの傘下に入ることで知名度アップを図るわけです。フランチャイズ加盟には、親会社やほかの加盟店が持つ経営ノウハウを得られるというメリットもあります。「全国展開しているお店なんだ」と安心する消費者も増え、集客もしやすくなるでしょう。塗装業界にはすでに、100店舗近い店舗数で全国展開しているフランチャイズもあります。地域に密着する戦略とは真逆ですが、これもまた一つの生き残り戦略です。

 

小平デスクが考える三和ペイントの強み

――これまで多くのリフォーム会社、そして塗装会社を取材されてきた小平デスクから見て、三和ペイントの強みはどこにあるとお考えですか。

グランコートシリーズという専用塗料を持っているのは、大きな強みです。しかも、製造元は、国内の大手塗料メーカーの一つ・関西ペイントさんです。関西ペイントさんの専用塗料を展開している塗装会社の存在は、あまり聞きません。他社にはないオリジナルの塗料は、差別化できるアピールポイントになります。グランコートシリーズには、塗り替えに付加価値を求める富裕層をターゲットにしたビジネスが望めます。こだわりのある消費者であれば、他社と比べてイニシャルコストが高くなったとしても、付加価値の高い塗料を選ぶ可能性が高いです。二極化している消費者のニーズに対して、ターゲットを絞った戦略が図れるのではないでしょうか。単価が高く、利益もしっかり上げる商品を提案する上では、商品のカタログや会社案内など消費者に訴求するツールの充実も必要です。

離職率が低いというのも、会社の強みになります。編集長の金子もお話ししたように、リフォームや塗り替えで着実に利益を出すには、一人のお客さんと長く付き合って何度もリフォームを注文してもらえる関係を築くのが理想です。それにもかかわらず、担当の営業スタッフがすぐに辞めてしまったら、長くお付き合いするのは難しいですし、お客様も「この会社は大丈夫なのかしら」と不安に思ってしまいます。離職率の低さは、会社の信頼につながります。腕のいい職人さんをしっかりと確保できているのも、これからの時代は大きな強みになるでしょう。営業スタッフががんばって契約を取っても、施工が終わらなければ売り上げにならない業界ですから。

――ありがとうございました。

クレジット
写真/森本真哉 文/小川裕子 企画・構成/岡部藤祐

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